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拡がる排外主義で問われる民主制

 イギリスのEU離脱をめぐる国民投票が行われ、内向き志向を強める世界の潮流が懸念されている。今回の離脱の背景には移民問題やEU政治への不満と合わせ、国内政治への不信があるとされる。ナショナリズムを主張する潮流は、イギリスに限らずフランス、フインランド、スペイン、イタリア、ハンガリーなどの極右から左翼政党までヨーロッパ全域に拡がり、とうとうアメリカのトランプ現象まで拡がった。反グローバリズム、排外主義の勢力が各国で蔓延し既存の政治勢力に対する不満が高まり、冷戦後の世界秩序を支えてきたグローバル化と民主制の有効性が問われている。近年、経済成長は力強さを失い各国では格差が拡がりグローバリズムの負の側面が目立つようになった。その結果、移民や競争相手の近隣諸国こそが自分たちの生活を脅かしていると、移民排斥や他国への批判を強める。そして移民排斥、反グローバリズムの扇動政治家が現れ、「われわれの平穏で豊かな生活を奪っているのは彼らだ」と訴える。確かにグローバル化で各国で格差が拡大している事実に目を背けることは出来ない。同時に排外主義で豊かな平等社会を実現出来るような期待感を振りまく政治も無責任だ。グローバル化によって流動化する生活環境の中で、ナショナルミニマムを保障し国民が安心感を持つ社会をめざして格差問題に取り組むことが必要と思われる。
 すでに紀元前にプラトンは民主制が衆愚政治に陥る危険性を論じた。チャーチルは「民主主義は最悪の政治形態だ。ただし、これまで試された形態を別にすればの話であるが」と民主主義の弱点を指摘した。つまり民主制は、絶えずポピュリズムや衆愚政治の誘惑に晒され、権力の独裁と隣り合わせと言われる。比較政治論の待鳥聡史氏は「代議制民主主義」(中公新書)の中で次のように指摘する。「代議制民主主義はヒトラーを筆頭に繰り返し扇動政治家の登場を許し、その度ごとに反省が語られてきた。だが有権者の意向が政策決定に反映されることに意義を見出し、意向が決定される際の判断基準が理性的であることを求めない以上、扇動政治家の出現は避けられない面もある。代議制民主主義にとって大きな課題である」と。
 今回、代議制民主主義の先進国と言われるイギリスで離脱か、残留か、という直接民主主義の手法がとられた。二者択一を迫る国民投票は深い議論でなく感情的な判断が表面化し穏健な選択は導けない。本来、専門知識を持つ議員達が冷静に議論すべき課題で、国民投票の手法を選択したことは歴史的な過ちで代議制の機能不全を意味する、と多くの識者が指摘する。
 世界秩序がきしむ中で日本が国際社会で果たす役割は大きい。参院選では国民うけの良い政策ばかりを羅列する政党の姿が目立った。社会保障や財政の将来不安克服などの懸案は先送りされ、ポピュリズム政治の一端を感じた。欧米で拡がる反グローバリズムの主張でナショナリズムを煽る無責任な政治を他山の石として、代議制民主主義の機能を発揮することを期待したい。特に政党にその重い責務があることを自覚して欲しいと願うものである。
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