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100年前の警鐘

 マックス・ヴェーバーが亡くなって100年の今年、雑誌や新聞で特別企画が相次いだ。共通する問題意識があったらしく岩波と中央公論社はそれぞれ評伝の新書を刊行した。旧版(1980年)の「職業としての政治」(岩波文庫)も佐々木毅氏(元東大総長)の解説を加えて新装出版された。新聞紙上でも姜尚中氏の対談形式などで何度か掲載された。
 マックス・ヴェーバーの著作の中でも「職業としての政治」は政治学の古典として、今日でも世界中で幅広く読まれている。マキャヴェリの「君主論」とともに、この2冊は政治家には最低限の必読書とも言われる。私も現職の頃、超党派の議員仲間の「比較政治制度研究会」という勉強会で読後の感想を議論し合った。この勉強会には佐々木先生はじめ先日亡くなられた近現代史の坂野潤治先生やアメリカやヨーロッパ政治の研究者などに出席いただき適切なアドバイスやご指導を仰ぎながら国内外の歴史など幅広く学んだ。ヴェーバー没後100年で様々な企画書などが発刊された今年、当時が懐かしく思い出される。世界中でコロナ感染が猛威を奮っているが、100年前のヴェーバーの死因がスペイン風邪であったことを思うと、何か因縁めいためぐり合わせを感じる。
 ヴェーバーの時代、第一次大戦後のドイツはスパルダクス団(ドイツ共産党の前身)による蜂起が失敗し騒然たる状況にあった。特にミュンヘンは「前衛的な学生や知識人の[革命]という誇らしげな名前で飾り立てられた乱痴気騒ぎ」の中にあった。こうした1919年の状況下でヴェーバーが学生たちを前に行った講演の記録が、「職業としての政治」である。以来、世界的な名著として今日まで読まれ続けてきた。ヴェーバーは政治家に求められる資質として情熱、責任感、判断力の三つを上げる。そして「政治とは情熱と判断力を駆使しながら、堅い板に力を込めてじわっじわっと穴をくりぬいていく作業である」と政治家としての資質を厳しく問う。
 100年前スペイン風邪は世界中に大きな打撃を与える。当時もマスク着用反対運動などがあった。また世界全体の死亡率に比べ日本の死亡率が低いなど今日と相似する。第一次大戦後、国際連盟設立、今日の日本国憲法9条の原型とも言うべき不戦条約を締結するなど、世界は平和への歩みを進める。だが自国第一のブロック経済政策などが対立を招き数年にしてヒットラーの台頭を許す結果となる。米大統領選での国民の分断やヨーロッパでのポピュリズム政治の蔓延など民主主義が問われる状況を見ると100年前の歴史をしっかりと見据える必要性を痛感する。おそらくは今年ヴェーバーを取り上げ出版した各社の編集部や作者も同じ問題意識があったものと思われる。国民請けする政策、人気取り政策に偏りがちな日本の中央地方の政治家にもヴェーバーの警鐘を厳しく受け止めて欲しいものである。



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