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民主政の試練

 ミャンマーでは今年2月クーデターによって軍が権力を掌握した。アフガニスタンでは8月に首都カブールを制圧した軍事組織タリバンが実権を握った。民主化を求める民衆の抵抗は抑圧され、両国とも数十年に及んだ民主化の取り組みは挫折し軍や武装勢力による専制政治の国家が誕生した。またポーランドやハンガリーなどの東欧諸国でも民主政治が後退しているとされる。プーチン政権のロシア、エルドアン政権のトルコなども民主主義国としては疑わしい状況だと外交専門家などから指摘される。このように多くの国で民主政の後退現象や揺らぎが現れている。
 コロナウイルスへの対応でも民主主義国家よりも専制主義や権威主義の国家の方が抑え込みに成功しているとする見方もある。権威主義国家ではロックダウン(都市封鎖)や個人の行動の規制が容易で、効率的にコロナ対策に効果を上げているとされる。新型コロナ感染症は自由の制約という、民主主義国家のもっとも不得意とする対策が求められた。いつでも人間の自由を制約出来る権威主義国家と違い、民主主義国家では個人の自由との調整を図りつつ、悪戦苦闘の対応が続く。これに対し早稲田大学講師の安中進氏は「民主主義的価値に疑問が投げかけられる中、コロナの死者数などデータの透明性を考慮すると権威主義国家の優位性は認められない」「政治体制の優劣を断定的に判断することは出来ない」とする(中央公論9月号)。そして民主主義や自由は、人間社会が長い政治的闘争をへて確立してきた理念であり、不用意に貶めることがあってはならない、と指摘する。
 こうした中、6月に英国で開催されたG7サミット(先進7カ国首脳会議)はG7に疑義を唱えたトランプ時代から再びアメリカが復帰し首脳宣言が発表された。宣言は専制主義に対する民主主義の勝利のための努力と団結の必要性をうたった。また気候変動問題や途上国へのコロナワクチン供給問題などとともに、経済力や軍事力でアメリカに迫る大国になった中国に対しては、新疆ウイグル自治区の人権問題、香港の自治と自由の抑圧などを列挙し権威主義国家に対する民主主義国家の対抗姿勢を強調した。
 一方、経済や社会政策でも「世論に耳を傾ける民主的な国家ほど21世紀に入ってから経済成長が低迷し民主主義国家の優位性が揺らいでいる」(成田悠輔エール大助教授)と指摘されるなど、民主主義国家は大きな壁に直面しているように見える。こうした中、近年の民主主義国家では、半導体など産業対策やデジタル課税など政府の介入も目立つようになった。コロナ感染症に苦しみつつも民主主義国家は市場メカニズムを重視するレーガン・サッチャー以来の小さな政府路線から転換し、新たな時代に入ったかに見える。日本の自民党総裁選でも岸田総裁は新自由主義からの脱却を訴えた。こうした変化への対応を通じて民主政は試練とたたかい鍛えられて行くものと思われる。人類の貴重な資産である自由と人権を制約する専制主義や権威主義と対抗しつつ、民主政は新たな挑戦の時代を迎えている。

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